笑わない男

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 私は、小さな頃から変なものが見えた。    それはいつも同じ電柱の前で立っている血だらけの女性や、寂しそうに俯いた足の見えない老人。自分の家のカーテンの後ろに座っていた小さな少女。ちなみに、ロープでぶら下がっていたサラリーマンを見たのが一番トラウマだったかもしれない。  幼い頃から見えているのなら慣れるのではないのか、という考えはよくあるみたいだが、少なくとも私は対象外だ。あんなもの、慣れる人間の気が知れない。いまだに見かければドキドキしてしまうし、ひどいのを見てしまった夜は怖くて寝つけない。  さらに残念なのは、それを共感してくれる人は周りにいなかった、ということだ。かろうじて、母だけは見えなくとも感じ取れた。だから、私の話を信じてくれるし、父は零感だったが、私と母を疑うことはしなかった。  でも同じものを見る人には出会ったことがない。それは単純に、『知るタイミングない』からだともいえる。  例えば中学の頃隣に座っていた田中くん。前に立って授業をしていた先生。彼らも実は私と同じものが見えていたとしても、わざわざ声に出すことはない。大体の人は、胸に秘めているからだ。
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