伝えたいこと

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「お願いします、ここにいたら強制的に消されてしまいます……そんな最期、私も嫌です……家族の近くにいて、ちゃんと自分で眠ってくださいよ……奥さんと健人くんは、あなたにただ安らかに眠ってほしい、これだけを願ってるんですよ、どうしてこんな。そんなに未告知が悔しかったですか? 私たちに何か仕返しでもしたいですか?」  縋りつくように泣いて訴えた。自分の情けない嗚咽だけが病室に響いている。悔しくてなるせなくて、涙は止まることなく溢れ続けた。どうか少しでも、生きていた頃の温かな気持ちを思い出してほしい。今ならまだ間に合う、先生が来る前に自分の意志でいなくなって。  そのまましばらく間が流れた。そしてついに、目の前にいる久保さんがようやく口を開いた。 『看護師さん』  その声色に、私は顔を上げた。  真っすぐ私を見つめるその瞳に、どこか不思議な感覚に包まれた。苦しそうな、悲しそうなそんな顔。彼の苦悩を押し込んだ顔。思っていた声色とはずいぶん印象が違ったからだ。 「久保さん?」
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