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感情的に声を出した私とは裏腹に、先生の静かな声がした。きょとん、としてしまう。てっきり先生がすぐさま消しにかかると思っていた自分は、予想外の言葉に状況が飲み込めない。
先生は白衣のポケットに手を入れたまま、そこからアルコールを取り出す様子はなかった。彼はやや険しい顔で久保さんを見る。何がどうなったのか分からず、私は二人を交互に見た。
「え? 勘違いって、何ですか」
「さっき、椎名さんが受け持ってた患者たちが二人ともようやく落ち着いて会話できるようになったから聞いてきた。あの慌ただしい出来事のこと」
「え? あ、窒息した人と自殺未遂した人のことですか?」
私が受け持っていた二人のことだ。先生は頷く。そして久保さんの方に向き直った。
「話はこうだ。まず窒息しかけた女性。
『昼食を食べていたら喉に詰まらせてしまった。苦しくてもがいてたらタイミングよく看護師さんがやってきてくれた』」
「へ……?」
「あと一人はこう。
『予後にずっと不安を持っていた。誰にも言えなかった。終わりにしたいとずっと思っており、ついに首を自分で締めた。タイミングよく看護師さんがやってきた』」
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