伝えたいこと

9/23
前へ
/273ページ
次へ
「…………それ、って」  心臓がバクバクと音を立てた。先生が言った『大きな勘違い』これの意味が分かる。  先生はこくりと頷いた。 「二人とも、ナースコールを鳴らした記憶はないんだそうだ。ナースコールで首を絞めた人はたまたま鳴った、ということも考えられるが、少なくとも窒息の方は、離れた場所に置かれていたらしいし、確実に手が届かなかったらしい」 「…………じゃあ」  私はゆっくり視線を久保さんに戻す。息すら止めてしまい、酸素が上手く吸えなかった。私はとんでもない思い違いをしていたのだ。  彼はやや俯きがちにじっとしていた。どこか一点を見つめ、拳を握りしめている。  違った。  違ったんだ。  私はてっきり、無視される怒りをほかの患者にぶつけているのだと思っていた。そうして仕返ししているのだと。だって普通、受け持ちの患者に一日であんな急変が重なる偶然なんてないから。  でも、そんな偶然があったのだ。本当にあの日はたまたま、ああいったことが起こってしまった。
/273ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1757人が本棚に入れています
本棚に追加