伝えたいこと

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 私はスマホに表示された地図を眺めながら、必死に坂道を登っていた。  大分涼しくなってきた時期とは言え、急な坂を上ると体は熱くなる。額に少し浮いた汗を拭きとり、こっちで合ってるんだよなあ、と再度地図を確認した。  静かな住宅街だ。どこからか子供が縄跳びをしている音が聞こえてくる。もう夕飯の準備をしているのか、換気扇からはいい香りが漂ってきている。今日は和食かな、いい匂い。  赤色に染まった夕焼けを背にし、私は目的地であるアパートをようやく発見した。  比較的新しい綺麗なアパートだ。ここで間違いないことを最後にもう一度だけ確認し、私はインターホンを鳴らした。  しばらくし、中からバタバタと足音が聞こえてくる。そして、玄関の扉が開かれた。中から出てきたのは、久保さんの奥さん、美和さんだ。彼女はやはりどこか疲れた顔色で無理やり私に笑って見せた。視界に入ってきてしまった玄関は、靴などが乱雑に置いてある。健人くんの姿は見えなかった、預けているのか、それともテレビでも見ているのだろうか。 「こんにちは椎名さん! わざわざうちまで来て頂いて」
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