伝えたいこと

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 奥さんは快く了承してくれ、やっとたどり着くことができた。ようやく私は、あれを手渡すことができた。  シンプルなもので、真っ白封筒には何も書かれていない。奥さんは何の気なしに中を覗き込み、そこに紙が入っていたことに気づく。彼女は恐る恐るそれを静かに取り出した。  どこか震える指先でそっと開く。  私は少し迷ったが、立ち去ることなくその光景を見つめていた。すぐ後ろに、水色の病衣を着た男性が立っていることに気づきながら。  しばらく音のない時間が流れる。奥さんのまつ毛が、字を追うごとに揺れ動き、震えた。  そして、中身を読んだ奥さんの目から、一気に涙があふれかえるのを見つめていた。  嗚咽が漏れ、立っていられなくなり、その場で泣き崩れてしまうほどの彼女を、私はただ見守っていたのだ。奥さんは私のことなど目もくれず、ただ白い紙に打たれた文字たちを、必死に追い続けていた。彼女の息苦しそうな泣き声が、今回ばかりはどこか嬉しく思った。
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