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しゃがみ込み掠れた声で、奥さんが尋ねる。私は小さく首を傾げ、用意しておいた答えを置いた。
「どうでしょう……本人しか分からない感覚がなにかあったのか。それは私にも分かりません。
ただ、久保さんは奥さんにとっても感謝していて、最期まで生き抜いた。それだけは間違いないのだと思います」
泣き声がひときわ大きく鳴る。すると、ずっと私の背後にいた久保さんがすっと動いた。そして奥さんの肩に手を置くように、優しく隣に寄りそう。温かな目をした久保さんに、私はついに涙が堪えきれなくなった。
愛って素晴らしいな。心からそう思う。
自分が死んだことが何よりショックで大きな出来事だったろうに、残した相手のことをここまで考えられるなんて。
しばらく経ち、奥さんがようやく立ち上がる。目と鼻を真っ赤にさせ、私に深く頭を下げた。
「届けてくださってありがとうございます。本当に、なんて感謝したらいいか」
「いいえ、気づくのが遅くなってごめんなさい」
「でも、夫のパソコンの中身は見させてもらったんです。こんな文章どこにも残ってなかったのに……わざわざ記録は消したんでしょうか、不思議だな」
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