伝えたいこと

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 そして私を見つけたわけだが、延々と無視される。何とか話を聞いてほしくて付きまとっている際、他患者に死が近づいているのに気が付いた。死者ならではの能力なのかもしれない。急変した彼らの傍らで代わりにナースコールを押し人を呼んだ。目的通り亡くなる前に私が気づき、急変の対応をしている様子を、じっと見守っていたらしい。  突然の死は家族が悲しむ。だから、二人とも何とか助かってほしいと思っていた。  とんでもない勘違いをしていた私と先生だがようやく久保さんの思いに気づき、話し合った。そしてこの手紙を作成し、奥さんに『病室にあった忘れ物』として届けたのだ。  奥さんに『思いつめないでほしい』と伝えたい。『自分は幸せだった』と伝えたい。  病を隠すという優しい嘘に、病を知っていたという優しい嘘。  この二人がお互いついた嘘は、私は世界で一番美しい嘘だと思っている。
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