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奥さんは鼻を啜りながら、でもどこかすっきりした顔で私にいった。
「心のモヤモヤは完全には消えません、あの人に気づかれていたなんて思ってもみなかったし」
「そうですね」
「でも、誠也はこんなにも私と健人の幸せを祈ってくれてるんだ、という思いは伝わりました。いつまでも後ろ向きでは心配させちゃいますね。ちゃんと前を向かなきゃ、と思いました」
そう言う彼女の目は、涙ではないほかの輝きを持っていた。それを優しい目で見つめる久保さんの表情は温かで、私はゆっくり息を吐きだした。初めて、霊と関わってよかった、と思えたのだ。
深々と奥さんが頭を下げる。
「椎名さんありがとうございました」
少し遅れて、久保さんも私にゆっくりと頭を下げる。ああ、彼はここに残るんだな、と気づいた。奥さんを救ってくれる誰かを探していたわけで、目的が達成された今、彼の居場所はここなのだ。
私も頭を下げ、玄関から出ようと背を向けた。すると背後から、小さな足音が聞こえた。反射的に振り返ってしまう。
眠そうな目をした健人くんが歩いてきていた。静かだなと思ったら、眠っていたらしい。奥さんが優しい声を出す。
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