1756人が本棚に入れています
本棚に追加
家を出てから堪えていた涙があふれかえり、私は一人泣きながら帰路についていた。
住宅街はあまり人が歩いていないので助かった。こんなに泣きながら歩いていたのでは、すれ違う人はびっくりしてしまうだろうから。なかなか止まりそうにない、いろんな思いがあふれ返る涙だ。
お互いを思いやる優しさが尊いと思う心。何とか立ち直れそうな奥さんによかったと思う心。
だが同時に、あんな素敵な人が短くして人生を終えなければならないという理不尽さが、どうしても付きまとってくる。これからやりたいことたくさんあったよね。健人くんの成長も見たかっただろう、奥さんを大事にしたかっただろう。何も叶わないこのやるせなさは、きっと解決することはない。
命は儚く、重い。
そんなことを考えながら歩いていると、すぐ前に黒い車が止まっていることに気が付いた。あれっと思うと同時に、運転席の窓が下がった。そこから出てきた顔を見て、一瞬涙が引っ込む。
藍沢先生が私を見ていた。
「……先生!」
驚いて叫ぶ。駆け寄ってみると、彼は不愛想に言った。
「家まで送る、乗っていい」
「え、でも」
最初のコメントを投稿しよう!