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「そんな泣きながら一人歩いていたんじゃ周りに驚かれる」
先生はそう言ったけど、わざわざ来てくれたんだという優しさに気づかないわけがなかった。久保さんの手紙を作成し、奥さんに手渡すことももちろん知っていたのだ。
私はにやける顔を何とか抑えつつ、言われた通り助手席に乗り込んだ。そこで、女が苦手な先生には助手席ではなく後部座席に乗るべきだった、と気づくのだが、まあ指摘されたら移動しよう、と安易に思いシートベルトを締めた。
「先生、来てくれたんですね」
「ちょうど休みだったし」
「奥さん、凄く泣いてました。ちゃんと幸せにならないと、久保さんに心配されちゃう、って最後は笑って……」
説明していると、また思い出してぶわっと涙が浮かんできた。鞄からタオルを取り出して顔面に押し当てた。もう、私が泣いてどうするんだ。
「久保さんもすごく穏やかな顔で……あのアパートに残りました。きっと……これからは家族を見守るんでしょうね」
「ならきっと、そのうち本人も気づかない間に安らかに眠ってるだろうな」
「健人くん、久保さんを見てパパ、って呼んだんです。パパ、って」
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