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確かにそうかもしれない、と思った。久保さんからすれば、命が勿体ないと思うだろう。たった一日でも生きれるなら生きたいと、久保さんなら思うだろうから。
「でもあの人はそんな相手も救った。突然いなくなれば残された家族が悲しむ、そう思って。
……それが俺には驚きであり、感謝だったんだ。そんな相手の話なら、聞いてみてもいいかもしれないと思った」
そう言った先生の声色が、何か引っかかった。彼はふいっと私から視線をそらし、ハンドルを握る。私が顔を覗き込むと、それを避けるように言った。
「家まで送る、住所教えて」
「あの、先生」
「なに」
「自殺行為をした患者さんを見たのは、初めてですか?」
先生の肩がピクリと動いた。その小さな反応を、私は見逃さなかった。
彼は表情こそ変えないものの、わずかに視線を落とした。
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