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「患者は、初めてかな」
「患者、は?」
「………………」
私の指摘に、先生は黙り込んだ。これ以上踏み入れてはいけない何かのような気がする。でも、私は引き下がれなかった。ただの好奇心だろうと言われればそれまでだが、でもずっと気になっていた。
私に頑なに霊と関わるな、と言っていた先生。関わるとろくなことにならない、と断言して。
そしてあの首吊りを見たときの顔、そのあとの反応。
先生ははるか昔に、何か辛いことを体験したんじゃないか、そう漠然と思っていた。自分自身霊と関わることで嫌な思いをしたから、私にもこうして助言してくれるんだと。
今どうしても、その過去が気になって仕方がない。
先生は長く沈黙を流した。そして私の方を見、強いまなざしできっぱりと言い切る。
「今回ばかりは関わってしまったことは結果正しかったが、今後は今までのように無視しつづけろ。決して霊とは関わらない、それを誰かに知られることもいけない」
「無視しなかった時期が、先生にもあるんですか?」
「正しく言えば俺じゃない。君みたいに、お人よしで霊を放っておけなかった人間がほかにもいた」
「他に?」
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