あなたの笑顔

8/49
前へ
/273ページ
次へ
「患者は、初めてかな」 「患者、は?」 「………………」  私の指摘に、先生は黙り込んだ。これ以上踏み入れてはいけない何かのような気がする。でも、私は引き下がれなかった。ただの好奇心だろうと言われればそれまでだが、でもずっと気になっていた。  私に頑なに霊と関わるな、と言っていた先生。関わるとろくなことにならない、と断言して。  そしてあの首吊りを見たときの顔、そのあとの反応。    先生ははるか昔に、何か辛いことを体験したんじゃないか、そう漠然と思っていた。自分自身霊と関わることで嫌な思いをしたから、私にもこうして助言してくれるんだと。  今どうしても、その過去が気になって仕方がない。  先生は長く沈黙を流した。そして私の方を見、強いまなざしできっぱりと言い切る。 「今回ばかりは関わってしまったことは結果正しかったが、今後は今までのように無視しつづけろ。決して霊とは関わらない、それを誰かに知られることもいけない」 「無視しなかった時期が、先生にもあるんですか?」 「正しく言えば俺じゃない。君みたいに、お人よしで霊を放っておけなかった人間がほかにもいた」 「他に?」
/273ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1756人が本棚に入れています
本棚に追加