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私が目を見開いて聞き返す。先生はシートにもたれかかり、小さく息を吐いた。暗くなってきた住宅街は心細い街灯がともっているだけで、彼の横顔がぼんやりと見えにくくなっていた。先生はいつものように黒い服を着ていて、闇に溶けてしまいそうだと錯覚する。
「……昔、霊が視える看護師がいて……お人よしで生前受け持っていた患者を放っておけなくて……話しかけて、その思いを聞いてやろうとしてる人だった」
「看護師、ですか」
「言っておくが全然違う病棟の話だ、椎名さんが知らなくて当然だ。
その子は聞くだけならまだしも、それを叶えようと奮起して……その家族に連絡を取ろうとして」
「えっ、個人的に、ですか」
カルテの中には家族の連絡先や住所などももちろん表記されている。だが当然ながら、それを個人的な理由で使ったり持ち出したりしてはいけない。私は今回、久保さんの忘れ物を発見したと看護長に報告し、自分で届けることを許可してもらって来たのだ。
先生は首を振った。
「もちろん最初は上司に連絡を取っていいか確認してて」
「あ、なるほど」
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