あなたの笑顔

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 なるほど、と思った。研修医とはいえ、このビジュアルの医者が現れたら女どもは色めきだっただろう。だがすでに看護師と付き合っている、なんて事実があれば、嫉妬する女も出てくる。女という生き物の中には、他人の幸福を受け入れたくない人数も一定数いるのだ。安易に想像できる状況だ。  その彼女さんは仕事場で、居場所があまりなかったのかもしれない。 「霊が視えるっていう虚言をするだとか、俺と付き合ってるっていうのも元々嘘だっただとか、今は患者の遺族に狙ってる男がいるから何とか連絡を取ろうとしてるだとか」 「ひどい!」 「……なんて噂が広がってることを、俺は知らなかったんだけど」  そう苦しそうに言った先生の言葉に、胸が締め付けられた。相手のことを本当に大事に思っていたということが伝わってきたからだ。  それと同時に、一つ理解したことがある。  先生はいつも、私と二人で話したりしないように周りの目を気にしていた。初めてちゃんと話した時もわざわざ車を人気のない場所まで運んだし、更衣室から出るときも時間差を助言した。きっと過去にああいう経験をしたからだ。
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