笑わない男

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 そのまま、日勤の看護師たちは全員定時に上がることができた。一旦更衣室に行き服を着替える。今日は何も予定がなかったので、適当な服を着てきてしまったことを後悔した。まさか私服を先生に見られるなんて思ってもみなかったのだ。  先生が言っていた北口、とは、北出口のことだろう。うちの病院は基本、この時刻なら正面玄関から出入りするのがほとんどだ。北口は正面玄関とは反対にある、人通りが少ない出口で、利用する人も少ない。先生と二人で話しているところなんて誰かに見られたくはないので、北口でよかった、と思った。  結んでいた髪をおろすと、跡がついて黒髪がうねっている。それを手櫛で簡単に纏めると、急いで更衣室から飛び出した。スマホは……うん、ちゃんと持ってる!  人の波に逆らいながら、私は北口を目指していく。脳内では会話のシミュレーションが何度も行われている。先生のことは怖くてちょっと苦手だったけど、連絡先ぐらいなら! って、偉そうじゃないか私。でもでもだって、そう思っちゃう。
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