あなたの笑顔

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 先生が看護師と付き合っていただとか、その人が自殺してしまっただとか、そんな話は初耳だった。先生は結婚はしてないようだが女に興味があるのかも不明、という情報しかないほどミステリアスな人だった。  そんな大きな過去があったのにまるで噂になっていないのは、当事者が逃げるようにいなくなったことや、看護師と先生が付き合っているというのも彼女の虚言だった、という噂だけが残っていったのかもしれない。人間は一部の話だけ聞いて、興味のない部分は切り捨てて忘れるものなのだ。もしかしたら自殺した看護師がいたことすら、周りの目を気にしてなるべくもみ消そうとしたのかもしれない。  一体先生がいつもどんな気持ちで働いているのか。あの病院にいるのか。想像するだけで胸が締め付けられそうになる。    これが全ての原因だった。  先生が私に霊と関わるな、と口酸っぱく言っていたのも、女性が苦手なのも、基本人と一線引いているのも、笑わないのも。  彼をどん底まで突き落とした過去が全ての原因だったのだ。 「……先生、辛かったですね」 「俺が? 俺は加害者でもある。忙しさを理由にろくに話も聞かなくて追い詰めたから」
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