あなたの笑顔

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「先生のせいじゃないです。そんなこと言わないでください」 「情けないのは、ここで働いていたらどこかで彼女の霊に会うかもしれない、なんて期待して働き続けたことだ。苦しい場所だった。あいつが存在しなかったように毎日が送られるあの場所は、恐ろしいところだったよ」  苦笑いする先生を見て、泣きそうになった。そんな悲しい顔で、なんて悲しいことを言うんだ。  心を殺して働くしか出来なかったんだろう。 「先生……」 「残念ながら一度も会えたことはなかったけど。まあ死んだ場所は病院じゃなくて離れた場所にある森の中だったしな。それとも、霊として彷徨わず安らかに眠ってるか。それが一番望ましいな」  そう言った先生は車のエンジンを掛けた。暗かった景色にライトが照らされ、やや眩しく思う。 「昔話は終わり。家まで送る。道分かる? ナビ入れるか」 「あ、大丈夫です分かります」 「じゃあ教えて」  先生はそう短く言うと、車を静かに発進させた。丁寧な安全運転で、先生の性格が出ているな、と思った。  静かになった車内で、私は俯く。
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