あなたの笑顔

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「ああ、あと少しです。すみません送ってもらっちゃって、少し進んだところにある交差点を右に入って、しばらく行ったところにあるソレイユっていうアパートで」  私がそう説明していると、突然先生が勢いよくこちらを向いた。首がもげるんじゃないかと思うほどの勢いで、私はつい驚きでのけぞる。彼は目を満月のように真ん丸にさせ、見たことのない表情で私を見ていた。 「ど、どうしました?」  尋常ではない反応に尋ねる。先生は分かりやすく目線を泳がせた。そして困ったように正面を向く。まだ変わらない赤信号をじっと見つめながら、小声で呟いた。 「……前住んでいたところだ」 「え?」 「さっき話した彼女。そのアパートに住んでたんだ」  今度は私が目を真ん丸にして先生を見つめる番だった。言っている意味が最初理解できなかった。だって、そんな偶然あるだろうか。  つまりその亡くなった先生の彼女が住んでいたアパートが、今私が住んでいる場所ということ? 「え、ちょ、ちょっと待ってくださいそんな偶然」
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