あなたの笑顔

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 先生が出した写真は、女性が一人で映っているものだった。どこか遊びに出かけたときのものだろうか、背景は綺麗な紅葉が広がっている。中央で楽しそうに笑いピースサインを作っているその人を一目見て、私は息を止めた。  パーマをかけたセミロング。華奢な体に可愛らしい顔。  これが先生と付き合ってた人かあ、なんていう感想さえ何も思えなかった。私は大きく息を吐き、一旦気持ちを落ち着けるためにシートに思いきりもたれかかった。 「どうした」  低い声がする。すぐには答えられず、一度瞼を閉じて呼吸を落ち着けた。 「私、知っています、この人」 「は?」 「私が入居する前からずっと、301号室の前で泣いている女性です」  私の言葉を聞くと、先生はやや乱暴にすぐそばにあった小道へ左折した。ずっと安全運転だったのに、初めて強く揺れた車に少しだけ驚いた。  道の端で強めにブレーキを掛けると、先生は慌てた声で私に尋ねた。 「なんて言った!?」
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