あなたの笑顔

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「彼女さん、アパートの部屋の前にいますよ。私は305号室の角部屋なんですけど、階段を上って見えるのは301号室なんです。その部屋の前に、いつもセミロングの女性が泣いている。無害そうなのでアパートの契約もしましたが、住み始めてから変わらずずっといます」  同じ部屋の前でいつも泣いている女の人。顔を覆っているのでそこまでよく見えないが、間違いなくこの写真の人だろう。いつも出掛ける時、帰宅する時散々見ているので間違いない。  あの人がまさか藍沢先生と知り合いだったなんて。  視えないフリをし続けているため、あの人のこともいつも無視していた。なぜ泣いているのか、どうしたいのかなんてまるで分からない。 「まさか!」 「301前で泣いてるパーマのセミロングの女性、これだけでも彼女さんと憶測するには十分ですよね」 「家の前に? そんな、死んだ後荷物の整理のために何度か足を運んだが、そんな光景は一切見なかった」 「でもいます。毎日います。今日もいますよ、多分」 「そんな……」  先生はハンドルを握りしめたまま顔を俯かせた。私は悲痛な思いでそれを見守る。
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