あなたの笑顔

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 彼女さんのことは何も知らないが、付き合っていた先生からすれば、もし霊となり浮遊する場合、自宅より病院の方が可能性が高いと思ったんだろう。まあ、色々悩んでいた原因はすべて職場での出来事だったのでそれも理解できる。  だが違った。なぜかは分からないが彼女は家に戻ってきて、しかも中に入ることなく外で泣き続けている。 「アパートの部屋の前……?」 「えっと、意外でしたか」 「あのアパートに住んでいたのは半年くらいで、そんなに思い入れもないかと思っていた。思い残したことがあるのは病院だろうと。これだけ病院内で見かけることもないのなら、霊になんてならず眠っているんだとばかり……」 「先生」 「まさかあの部屋の前? そんな」  混乱しているように呟く。アパートの部屋の前なんて、気が付かなくて当然だ。自分が住んでいるわけでもないアパートに出入りするのはよくないし、確認のしようがない。  だからこそここまで長く時間がかかってしまった。あの人は誰に気づかれるわけもなく、一人泣き続けている。 「…………先生。  会いますか?」
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