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たどり着いた北口は、やはり正面とは違い人が少なくひっそりとしていた。きょろきょろとあたりを見渡すが、まだ先生は来ていないようだった。とりあえず壁際に寄って、体を小さくしておく。
どこかドキドキする心臓を落ち着かせつつ、浮いている髪を必死に抑えた。何度も手櫛で纏めてしまう。デートするわけでもないのに、一体何を浮かれているんだろう。
そうして待ちながらしばらくした頃、目の前に誰かが立った。はっとして顔を上げる。てっきり先生かと思っていたが、いたのは全くの別人だった。
「あれ、やっぱり椎名さんか」
優しく笑ったのは、山中さんだったのだ。
「山中さん!?」
「いやあ、私服になると分からなくなるね。髪も下ろしてるから……印象が随分違うよ」
「どうしてここに?」
「ちょっと院内を散歩がてら」
病衣を着た姿でそう微笑んだ。確かに、彼に行動制限はされていない。暇な時間は病院内をうろうろすることもあるだろう。中にはコンビニなどもあるのだし。
だがまさか、ここで患者に出くわすとは思っていなかった。まだ先生が来ていないときでよかった、と心で思う。
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