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私の声かけに小さく頷いた。そしてゆっくりとした歩調で歩き出す。私か彼の少し後ろからついていき、その黒い後ろ姿を必死に追った。
エントランスを抜けて階段へ向かう。秋の匂いがあたりを包んでいた。生ぬるい風が頬をかすめ、何かが始まる、そう伝えてくれている気がした。
すぐに二階にたどり着き、もうすぐだと唾を飲み込んだ直後、先生が足を止めた。ぴたりと止めてしまったそれを睨むように俯きながら、片手で頭を抱えるように額を覆っていた。そして、腕に隠れた顔は、本当に本当に苦しそうな顔をしていた。
「先生……」
私の泣きそうな声がする。
彼の表情から葛藤と苦しさが嫌というほど伝わってくる。わずかに震えた唇で、先生は呟いた。
「何を話せばいいんだ……俺のせいで死に追いやった相手を」
「先生のせいなんかじゃ」
「俺のせいだ。そのせいで自殺して、その後も眠れず泣いてる晴子に、なんて声を掛けていいのか分からない」
「……でも、先生しかいないんですよ」
私が強い口調でそういうと、顔を上げた。切ない表情で私をじっと見た。
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