あなたの笑顔

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『よかった! これで中に入れるね』 「中に誰かいるなんて気のせいだ。うん、晴子はそろそろ休んだ方がいい、長く働きすぎた」 『そうだね、とても疲れて眠いよ』 「これで安心しただろ。そのまま眠ればいい。今ならきっとよく寝れる」 『よかった、響が来てくれてよかった』 「起きたら、どこかへまた出かけようか」 『そうだね、どこへ行こうね。私どこか景色が綺麗なところに行きたいなあ』 「行こう。晴子の行きたいところへ」  目を細めて嬉しそうに言う晴子さんに、そっと手を伸ばす。涙にぬれたその頬を拭くように、先生は大きな手で包み込んだ。先生のその目には、涙が溜まっていた。晴子さんは不思議そうに小さく首を傾げる。 『響? どうして泣いているの』 「泣いてない眠いだけ」 『響も眠いんだ?』 「眠いよむちゃくちゃな。晴子、ありがとう」  晴子さんは心地よさそうに目を閉じた。愛しい人のそばで帰る場所への鍵を手に入れ、安心したようだった。二人のそこだけ、目には見えない温かな空気が包んでいるように感じた。
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