あなたの笑顔

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「忘れてたみたいだ」 「いいじゃないですか。晴子さんが一番安らかな形がいいと思います」 「そうだけど……」 「先生のおかげでもう泣くこともないでしょう。よかったですね、先生」  私は精いっぱい明るく言って見せたが、彼は複雑そうな顔をしていた。死因が死因なだけに、きっとどんな結末を迎えようと気分が晴れることはないだろう。  愛する人を亡くす、これは人生において何よりも苦しいことなのだ。 「……あの、せん」    言いかけたとき、突然ガチャリと音がして飛び上がった。そしてなんと、私たちの目の前にあった扉が開いたのだ。  中から怪訝な顔をした女性が現れる。私たちを見ながら、迷惑そうに声を出した。 「あの~、何かありましたか?」  しまった、住民だ! 私は慌てふためく。  すっかり忘れていたがここはすでにほかの人の部屋。人んちの前で話していたんじゃ、何事だと気になっていただろう。私は深々と頭を下げた。 「すみません部屋を間違えました!!」
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