あなたの笑顔

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 私は急いで廊下を抜け部屋に入る。おお、シンクには朝ごはんを食べた食器がそのままだし、メイク道具も出しっぱなし。部屋着もベッドの上に脱ぎっぱなし。  大急ぎで片付ける。洗い物はもう無理なので諦めた。まさか先生を家にあげるなんてことは予想していなかったのだ、仕方ない。  とりあえずマシになったところでやっと先生に声を掛ける。 「お待たせしました~……散らかってますけど」 「……じゃあ、お言葉に甘えて」 「はい」  先生は入り、私がいつも使うローテーブルの前に座り込んだ。違和感が凄すぎる、藍沢先生が私の部屋にいるなんて。  私はとりあえず一番傷や汚れがマシそうなマグカップにお茶だけ入れ、先生の前におずおずと差し出した。自分の分も置いておく。  今更ながら緊張が凄い。 「すみません、散らかってるしお茶もただの麦茶で」 「急に邪魔した俺が悪いんだ、ありがとう」  相変わらずお礼はきちんと言ってくれる。困りつつ私も座り込んだ。先生は出したお茶を一口飲む。あのコップは永遠に捨てないでおこう、とくだらないことを考えた。
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