あなたの笑顔

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 何をどう切り出していいのかも分からず黙っていると、先生の方が口を開いた。 「椎名さん」 「え? はい!」 「ありがとう。まさか四年経って晴子に会えると思ってなかった」 「そんな、私は何もしてません! えっと、多分眠ったんですよね? 晴子さん……」 「多分そうじゃないかな。  どうも死者の中には、記憶が欠落していたりする者も一定数いるらしい。晴子はそのパターンだったみたいだな。多分死んだことすら気づいてなかった」 「でも、最後の」  ごめんね、の意味を聞こうとして黙った。とやかく突っ込まない方がいいと思ったのだ。  晴子さんは安らかに眠れた。先生も晴子さんに会えた。それで十分じゃないか。 「……はい、ようやく泣き止んでよかったです」 「鍵を持っていてよかった」 「本当ですね。ずっと持ってたんですね……」 「管理会社に頼んで譲ってもらった。でも、もっと早く気づいてやれればよかった」 「そりゃ人んちのアパートに入れないですもん、気づかなくて当然ですよ。それこそ通報されちゃいます」 「ま、そりゃそうだけど」 「綺麗な人でしたね晴子さん」
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