あなたの笑顔

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 私が言うと、先生は懐かしむようにどこか遠くを見て、目を細めた。 「明るくて俺とは正反対だった。表情も豊かで、そこも反対。俺はこんなんだし、よく付き合ってくれてたな、と思う。意外な組み合わせだって知り合いにはよく言われた」  そういった言葉を聞き、微笑ましいと思うと同時に、胸がぎゅっと痛んだ。よく付き合ってくれてた……そんなふうに思うほど、晴子さんを好きだったんだなと痛感する。 「えっと、二人がとても仲良かったんだな、というのはよく分かりました」 「どうかな」 「先生は晴子さんから何も話を聞けなかった、というのを悔やんでますが……それは先生が頼りなくて言わなかったんじゃないと思います。先生が大事だから、好きだから言えなかったんじゃないですかね。心配掛けたくなかったから……だって、死んだ後すべてのことを忘れてもここに戻ってきたんですよ。先生が帰ってくるかもしれないから、その理由で」  私の言葉に、何も答えなかった。ただ白いマグカップを手に持ち、じっと見つめている。今先生が何をおもっているのかよく読み取れなかった。  口を閉じる。部外者の私が余計なことを言っただろうか。
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