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「……なら、よかったです」
「ご心配どうも。じゃあ、帰る」
そう言って先生は玄関に向かっていく。その後ろ姿にのそのそとついて行く。靴を履き終えた先生は私に振り返った。
「明日からまたよろしく」
「はい」
「今日は本当にありがとう。全部椎名さんのおかげだ」
「いえ、そんな」
「次椎名さんが困ったときは俺がなんとか助けるから、気楽に連絡してくれればいい。ま、霊がらみは勘弁だけど。
あ、戸締りはしっかりな」
そう言った先生は、扉を開けて外へと出て行った。名残惜しさなんてこれっぽっちもない立ち去り方だった。
扉が閉じ切ってしまう直前、私はそれを手で止めた。そして音なくそうっと開いた。そこから顔を覗かせ、歩き出した先生の後ろ姿を見送る。
彼は階段に向かって颯爽と歩いた。その廊下は、今まで見てきた様子とちょっと違う。いつも泣いていたあの子はもういない。やけに広く感じる廊下を、私はじっと見つめていた。
先生はあの扉の前に来ると、ふと足を止めた。そして、晴子さんが立っていた場所を見る。
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