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先生はそこを眺めて微笑んだ。遠くから見ていても分かるほど、優しい笑みだった。その光景がまたしても自分の胸を痛いほどに締め付ける。
すぐに彼は部屋を通り過ぎ、階段を下りて行った。私の方なんてちっとも見なかった。
私は音を立てないように扉を閉めた。鍵をかけたあと、ふうと大きくため息を漏らす。
ああ、辛い。でもしょうがない、あれは敵うわけがない。
「でも……先生と晴子さんが報われたのなら、よかったな」
ぽつんと呟く。そうだよ、すべてはそれなのだ。私の失恋なんかどうだっていい、ずっと過去に縛られ続けていた二人が再会し、穏やかな気持ちになれた。それでいい、私も失恋した甲斐があるってもんだ。
ぐっと拳を握り、前を向く。
平気平気! 先生だって一生独身じゃないかもしれないし、これから働いて行けばチャンスが到来するかもしれない! 何年かかるか知らないけど、まだすべて終わったわけではないだろう。完全に諦めることはないぞ、私。踏ん張ってみるんだ。
そう自分に言い聞かせ部屋に戻っていく。中に入ったところで、白いマグカップが視界に入ってうっと言葉を詰まらせた。
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