笑わない男

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 コンコン、と窓ガラスを叩いてみる。スマホを見ていた先生がこちらを見た。黒い無地の服を着ている。  私は軽く頭を下げる。すると、こくんと小さく頷いた。たったそれだけ。  もしや乗っていい、ってことなのだろうか。戸惑ったが、とりあえずこのままでは会話も出来ないのでドアを開けてみる。  無音の車内だった。掃除は行き届いていて清潔だ。下手な芳香剤の香りなどもなく、飾り物も一切ない。 「お、お疲れ様です」  恐る恐る覗き込んで声を掛けてみる。 「乗っていいんでしょうか?」  尋ねると、先生は少しだけ眉をひそめた。その様子に、驚きで固まる。人を呼んでおいて、自分は車に乗ったまま動かないくせにその反応は何だ。  ここですぐに、ああやっぱり先生が私を狙ってるなんてありえない妄想だった、と反省する。分かってたことだけど、ちょっと夢見たんだけどなあ。  先生は小声で言った。 「どうぞ。人がいるところは嫌だから」  その言い草に、私の眉は怒りでぴくぴくと震えた。つまり、私なんか乗せたくないけど、周りに人がいるのが嫌だからしょうがなく許可したってことですか。
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