笑わない男

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 思い返してみる。昨日エレベーターで、血まみれの男の人に反応して開けるボタンを押してしまった。あれで気づかれたのだろうか。 「うん、あれが決定的だったかな。それ以外も、時々廊下にいる人たちを、君だけは必ず避けて歩いていた。今日の女性も」 「と、言うことはですよ、先生も視えるんですね!?」  声が弾んでしまった。まさか自分以外に視える人と出会う日が来るなんて、想像もしていなかったのだ。  辛い気持ち、やるせない気持ち。視えない両親たちにいくら話しても、どうしても理解しきれないだろう。自分と同じものが視える人と話せたら、と憧れていた。  もしかして、先生もだろうか。だから今日わざわざ呼び出してくれた? 同じ能力を持つ仲間として、私と話をしたいと思ってくれたのだろうか。  目を輝かせて先生を見るが、彼はやはりこちらを見なかった。そして無表情のまま淡々という。 「俺は君と馴れあうつもりはない」 「…………へ?」 「この仕事をしていて、相手に話しかけたことは? 身元を調べたり、能力について誰かに話したことは?」
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