笑わない男

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「いや、一度もないですけど。ああいうのは、なるべく見えないふりをするのが一番かなあ、って。この力も、家族しか知りません」  私が答えると、一つだけ頷いた。 「そう、それならいい。正しいやり方をわきまえてる。  言う通り、見えない振りが一番だ。決して相手に関わったりしないように。絶対に、仕事仲間にも視えるなんて言わないように」 「は、はい」 「それだけ。家まで送る」  目をちかちかさせてしまった。わざわざ呼び出しておいて、たったこれだけとは。話を聞くに、私と仲良くしたり語ったりということは全くしないつもりらしい。 「えっと、先生それを言いたいがために呼び出したんですか」 「そうだけど」 「どうしてわざわざそんな忠告を?」 「この仕事をしてるとどうしても霊には会うし、それがもしよく受け持ってた人の姿とでもなれば変な同情心を抱いて関わろうとする。そうなると本来の業務に支障をきたすことがある。だから言った」  小さく首を傾げる。分からなくもない理由だけど、イマイチ釈然としない。看護の業務が疎かになるほど霊に肩入れするなんて、ありえないと思うのだが。
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