笑わない男

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「どうしてそんなことに、とか。頑張って克服した方がいい、とか言わないんだ?」 「私が言ってどうなりますか。大変ですねえ、とは思いますけど、そこ言われなくても先生自身考えてるでしょう?」  先生は少しだけ目を丸くした。そして小さく頷く。  そう、生きるのに困るほどなら先生自身色々考えるだろう。他人の、しかも今までほとんどしゃべったことがないような私が口を挟む問題ではない。 「あ、てゆうか歩いて帰りますよ。女の私が助手席にいるの嫌でしょう? ここでいいです!」  私がそう言ってシートベルトを外すと、先生は小さく首を振って言う。 「いや、でも誘ったのは俺だから」 「大丈夫ですよ。近いんで」  そう言ってドアを開ける。すぐに立ち去ろうとしたが、最後に先生の声がした。 「椎名さん」 「え? まだ何かありました?」 「ペン落としてるよ」  言われて覗き込む。確かに、助手席の足元に私のボールペンが落ちていた。
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