突然の別れ

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 戸惑いが隠せなかった。受け持ち表をちらりと見てみると、今日も私が受け持ちの予定だった。  彼は末期癌だった。だから、予後はいいものではなかった。とはいえ、まだまだ亡くなるには早すぎる。  ここは病院だ、亡くなる人は珍しいことではない。だがやはり、人が病と闘い死に向かっていくのには過程がある。血液データに現在の状態が表され、血圧などの値が徐々に変化していく。  だから、昨日まであれだけ元気に歩き回っていた人が亡くなるのは、ないこともないが、あまり多くはない。入院したばかりで、これから様々な治療が始まる予定だった。その矢先に、突然いなくなってしまうなんて。  人の死を見送るのは辛い。それも、こんなに突然では。 「昨日はあんなに元気だったのに……」 「ひなの、入院取ったしよく受け持ってたよね。感じのいいおじさんって感じで」 「本当に突然すぎる」 「まあ、ゼク(病理解剖)なしだって。弟さんが遠方に住んでたみたいだから、ようやくさっき着いたみたい。うちらもヘルプに入ろうか、夜勤の人たち全然手が回ってないみたいだから」  私は頷きつつ、ずんと気持ちが落ちるのを自覚した。
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