突然の別れ

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 すぐにドクターと家族に連絡。家族の意向もあり蘇生措置はなし。家族の到着を待ち、三時間後にようやく来れたそう。あまり仲のよくない弟だったらしく、特に取り乱すこともなく、淡々と説明を聞いていたそうだ。歩美も言っていたが、突然死だったが病理解剖などは特にすることなく出棺された。  出棺に付き添ったのは、受け持ちでもあった私だった。随分真っ白になってしまった山中さんを最後見送る。亡くなった後の姿は、どうも未だに見慣れない。一気に顔色も変わり、一目で生きている頃とは違うと誰にでもわかる。  その顔を見ると、何とも言い切れぬ気持になる。これからまだまだ出来ることがたくさんあったのに。その手伝いを何もしないまま、別れることになってしまった。その虚しさが全身を満たしてしまう。  それでも残酷なようで、病棟に帰ればほかの患者と笑顔で接さなければならない。看護師は強い、とよく言われるが、強くいなければならないのだと痛感している。一人の死で打ちのめされていては、私たちは働けないのだ。
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