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宇佐美さんは引かない。目をギラギラさせて獲物を狙った野生動物に化している。
「一時間だけどうですかあ? 私先生と話してみたいです~! 別に二人でもいいんですけど」
そう甘ったるい声を出しながら、先生の腕に触れようと手を伸ばした。それをみた私は私はつい、反射的に声を上げた。
「藍沢先生!」
二人がこちらを振り返る。そこで、何も考えずに呼んでしまったことに困ってたじろいだ。だがすぐに立て直す。いつだって、私が先生を呼ぶ理由なんて一つじゃないか。
なるべく慌てた様子を出しながら先生に駆け寄る。
「見てもらっていいですか。先生のチームの患者さんで」
「行く」
そう短く返事をした先生は、宇佐美さんの隣りをすり抜けて私の元へと近づいた。私はそのまま廊下を歩きだす。視界の中で宇佐美さんの姿が見えたが、特に気にしてないようだった。また後で声かけよう、みたいな顔だ。そりゃ患者優先なので、そこは宇佐美さんも分かっている。
とりあえず歩き続け、廊下を抜けて曲がったところで、先生が私に尋ねた。
「誰のこと?」
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