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そう尋ねられ、うっと答えに詰まる。ついああやって呼んでしまったけれど、余計なことだったかもしれない。思えば、先生は私と馴れあうことはしないと宣言していたのに。
私は振り返る。辺りに人はいないし、ステーションからは一番遠い端なので、誰も聞いていないだろう。小声で、「えっと……」と口籠る。困っている私の顔を見て、何かを察したらしかった。彼は無表情のまま小さく頷く。私は小声で謝罪した。
「すみません、余計なことをして」
あまり考えず声を掛けたけれど、お節介だったかもしれない。私だって女なんだから、先生からしたらあまり接したくない相手だろうに。
「いや。咄嗟にフォローしようとしてくれたんだろ。ありがとう」
素直な返事が返ってきたので、驚いて顔を上げた。そこにはやっぱり笑顔はないけれど、黒髪の奥に見える目はどことなく優しい気がした。
意外だった。不愉快そうな顔をしてくるかと思っていたのに。
(……あんまり怖い人じゃないのかな)
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