突然の別れ

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 今までそう思ってたけど、ちゃんとお礼を言える人に悪い人はいない、と私は思っている。女嫌いと、それ以外も人と群れることは嫌ってるけど、根は悪い人じゃなさそう。  先生はそれだけ言うと、すぐにその場から離れた。なんとなく白衣の後ろ姿を見送りながら、本当にもったいないなあ、なんて思う。  まあ、お礼は言ってくれたんだし、助けられたんだよね? お節介はほどほどにしなきゃだけど、声掛けてよかったのかも。  ふうと息を吐きながら、すぐさま仕事モードに戻る。いけない、まだやることは盛りだくさんだというのに。次は何をするんだっけ、とりあえずステーションに帰って……。  そう思いながら、カートを押しつつ歩き出した時だ。  ひんやりとした空気が、首元を通った。  温度管理がしっかりされている病棟で感じることはありえない、冷たいものだった。例えば冷凍庫を開けた瞬間に感じるようなそれが、背後から流れ込んでくる。瞬間、何かがいる、と感じ取った。  ぞくりと嫌な感じを察して、唾を飲み込む。
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