笑わない男

5/38

1750人が本棚に入れています
本棚に追加
/273ページ
 中央には共同のトイレやシャワールームがあり、それを病室がコの字で囲むように配置されている。大部屋の並びと、個室の並びで分かれている。私は今日受け持ちである大部屋に入った。そこで横たわっている患者に声を掛け、しっかり手順を守って点滴を滴下させた。  ふうと息を吐き、病室を出る。まだまだやることは盛りだくさんだ。ええっと、記録は書いてないし、あ、丸野さんの頭を洗う約束してるんだった。北川さんは午後一に検査があるし……。  そんなことを考えながらふと廊下を見る。トイレの前に一人、女性が立っていた。  水色の病衣。うちの病院のものだ。それを身にまとっているが、顔は見覚えがない。  ちらりとその存在を確認した直後、誰かがトイレへ入っていった。彼女の体をすり抜けて。 (……やっぱりかあ。見覚えないけど、違う病棟の人なのかなあ)  そう思いながら、私はすぐに目をそらした。  病院に就職して、もう半年近く経つ。
/273ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1750人が本棚に入れています
本棚に追加