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それがあまりに辛かった。突然の死で、驚いているのだろうか、嘆いているのだろうか。それは尤もなことで、私には到底想像できない苦しみなのだろう。
だがすぐにハッとする。彼の気配に気づいて振り返り、目が合ってしまった。今まで、あれだけ見えない振りをし続けてきたのに。
「えーと、記録の前にあの人の点滴見なきゃだったなあ」
すぐに視線をそらし、誰に言うでもなく独り言を呟いた。そして、まるで山中さんには気づいていない、という風に装い、彼の隣りを通り過ぎる。心臓がどきどきしている。
上手くごまかせただろうか。あちらに視えていると感づかれてはまずい。自分の話を聞いてほしくて、付きまとわれるかもしれない。それはだめだ、私には何の力もないんだから。
足早にその場から離れていく。振り返ることはしなかったが、幸い、あの冷気のようなものはすぐに消え去った。多分付いてきていない。
胸を撫でおろすとともに、ちくりと痛んだ。
山中さんはなぜああして残ってしまったんだろう。何かやりたいことがあった? 会いたい人がいた? 分からない、私は結局、彼のことを何も知らないのだ。
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