突然の別れ

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 ……ここって。  ため息を漏らした。よりにもよってこの部屋かあ。今山中さんが立ってる場所の真ん前の部屋だ。  高齢の女性が使っている個室だ。でもトイレは一人で行ける人のはず。何かあったんだろうか。  私はすぐさま廊下に出た。  暗闇の中で、また彼が立っている。今は両腕を垂らしていた。私はそれをなるべく視界に入れないようにしながら、目的の部屋へと急いで移動する。  小さくノックをして中に入る。体調不良とかじゃないといいな、と思ってベッドを見てみると、静かに横たわっている患者がいたので目が点になった。  小さなおばあちゃんが、規則的な寝息を立てている。近づいて様子を見てみるも、異変はない。ナースコールを見てみるが、彼女の手からは離れたところに置いてあった。 (……寝ぼけて押したのかな? それとも、不具合?)  首を傾げながらも、何もないのならいる必要がない。すぐさま部屋から出た瞬間、体をこわばらせた。  山中さんがこちらを向いて指を指している。  すぐに視線を落として、足早にそこを去る。やっぱり間違いなく私を示している。
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