笑わない男

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 初めは右も左も分からない状態で、ただ先輩看護師について回っていた自分だが、徐々に物事を理解し学んでいった。今では一応、先輩たちと同じ人数を受け持ち、一人でこなすほどまで成長できている。  仕事は過酷だ。生と死に触れ、精神的にも肉体的にも日々限界だと思う。それでも、自分が望んだ憧れの職業は、やりがいはあると思えた。  理不尽もある。ジレンマも葛藤もある。でもその合間に、元気になってここを出て行く人を見送るのは、やっぱり何にもかえがたい喜びなのだ。  看護師としての仕事はまあそんな感じだ。紆余曲折しつつ頑張っているのだが、私にはもう一つ悩みがある。そう、見えてはいけない存在が見えること。  病院はやはりそういった存在が多い。格好を見るに、大方病院内で亡くなった方が多い。だが、いつどこで亡くなったか不明な人ばかりで、そんな霊があっちこっちに存在している。私は見ないフリをするのに、必死だった。  成仏とか、させられたらいいのだけれど。生憎そんな力もないし、あまりに数は多すぎるし。放っておけばどっかに行ってしまうことがほとんどなので、関わらずに過ごしている。
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