突然の別れ

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「私は何も出来ないんです。急なことに驚かれたかもしれないけど、眠った方がいいと思います。私は本当に、何も……」  懇願するように言いながら、自分で空しかった。視えるだけで何も出来ない、あんなにいい人だった山中さんの気持ちに応えられない自分の無力さが、痛いのだ。  だがその時、耳元で声がいた。 『見てほしい』  ハッとする。  それは声を直接聞いたというより、声が脳に語りかけているような感覚だった。私はそっと視線を上げた。  山中さんの顔がすぐ近くにあり、満面の笑みで私の顔を見ていた。だがそれは生前の優しい笑みとは違い、どこか恐ろしく狂気であふれているような顔だった。  見開いた目は瞳孔が散大している。横に広げられた唇は真っ白だ。生気のない肌色。頬に刻まれた皺の一本一本が見えるぐらい、彼の顔が近づいている。  つい後ずさりした。だが、声だけが脳内に響き続ける。 『見てほしい 見てほしい 見てほしい 見てほしい 見てほしい ……』
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