突然の別れ

26/34
前へ
/273ページ
次へ
「俺の忠告聞いてたよね?」  ステーションに戻るなり、呆れた声が私を襲った。無言で頭を垂れる。先生ははあとため息をついて椅子に座り込んだ。まさかその隣に腰かける勇気が出るわけもなく、立ったまま反省する。 「すみません……」 「なんとなくこうなる気がしていた」 「患者のナースコールを使って呼ばれるようになっちゃって。止めるには説得しかないかと」 「そんなに執拗に呼ぶなら、視えること相手にばれてるだろう」 「ぎく」 「どうせその前から気にかけてたんだろう」  その通りだ。私は言い訳もできず、ただ謝るしかできない。 「すみません……ていうか、先生どうしてここに?」  夜勤始まる前まで、先生は病棟にいた。いつの間にか帰ったんだと思っていたけれど、こんな真夜中になぜいるのか。見たところ、白衣でもなく私服だ。この前のように、黒い服を身にまとっている。  私の質問に、視線をそらしながら言う。 「別に、忘れ物」 「ええ、こんな夜中にですか……?」 「それより、まだあの人残ってる。普通、消すぞって脅されれば、大概のものはどっか消えていくんだけどな。あれは相当執着しているな」
/273ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1748人が本棚に入れています
本棚に追加