突然の別れ

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「知らない。君が視えるって気づいていたから、自分を見てほしいって言っただけだろう」 「他にもなんかあると思うんですよ。山中さんは突然死しちゃったじゃないですか。そりゃ、予後はあれだったけど……やり残したことがあると思うんです」 「彼は独身で子供もいない。両親は他界、弟はいたけど、特に仲がいいとも言えない関係だ。  やり残したことが何かは知らないが、少なくとも家族に伝えたいとかそういうことではないのは確かだ」  確かにそうだ。彼の背景は先生の言う通り。カルテにも記載はあるし、本人もそう言っていた。  さらに先生は続ける。 「それにもし。もし、相手の心残りが何かわかったとする。だからと言って、自分に何が出来る? 例えば誰かに何かを伝えてほしい。どうやって? 死んだ人が視えるんですって言って、相手が素直に聞いてくれると思う? じゃあ好きなアーティストのコンサートに行きたかった。死人のためにチケットでも取ってやるつもりか?」 「それはそうですけど」 「俺たちに出来ることはない。あったとしても、そこまでやってやる義理はない」
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