笑わない男

7/38

1750人が本棚に入れています
本棚に追加
/273ページ
 それにだ! 夜中に点滴抜いて血まみれになりながら徘徊している認知症患者を見つけたときの方がずうっと怖いのだ!! (さて! 仕事仕事っと)  そう思いながら廊下を進もうとしたとき、目の前からある人が歩いてきた。なんとなく、そちらに視線を動かす。  白衣をなびかせ、まっすぐ前を向いたまま歩いている。真っ黒な髪は、前髪がやや長めで目にかかっており、その隙間から切れ長の目が見えた。  スラリとしたスタイル。高い鼻に形のいい薄めの唇。整った顔立ちからは、すこし近寄りがたい雰囲気すら感じる。周りのことなど気にせず、白衣のポケットに手を突っ込んだまま、藍沢響(あいざわきょう)が歩いている。  彼はうちの病棟が誇る、男前ドクターだ。  年は確か三十。そりゃもうすれ違えば見とれてしまうのは必須なぐらいな美形さんだ。うちの病院では有名な人らしく、この科に配属されると決まった時、友人に羨ましがられたことがある。まあ、私は配属されるまで先生のことは知らなかったわけなんだけども。
/273ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1750人が本棚に入れています
本棚に追加