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不愛想に言った先生は、私をちらりとも見ることなくその場からいなくなってしまった。その後ろ姿から、怒りが伝わってくる。怒っているのはこっちだ、そりゃさっきは助けてもらったけど。そう口を尖らせながら考えていると、あれ、と思い出す。
そういえば、叫びそうになったところを先生がフォローしてくれたんだった。それに対しては一言もお礼を言えていない。あの時、先生が来てくれなかったら大変だった。
あ、それと! 女が苦手だというのに、私の口を塞いでくれたではないか。多分、他に方法がなかったから仕方なく頑張ってくれたのだ。
(……やっぱり悪い人じゃないのかなあ)
頭を掻きながら単純にも、そう思ってしまう。冷たい人だと思ったりいい人かもしれないと思ったり忙しい。そして、私は近くにあった手指消毒用アルコールを手に取ると、こっそり振り返る。緑川さんは、何やらパソコンを見ていた。
そそっと駆け出し、大分小さくなった先生の後ろを追う。
「先生!」
小声で呼ぶ。先生が振り返った。そんな彼に、私はアルコールを差し出す。
少しだけ目を丸くして、きょとんと私を見た。
「え?」
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