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「さっき、私に触っちゃったでしょう。不本意だったと思います、すみませんでした。でも先生が来てくれなかったら、病棟のど真ん中で叫びだしてました。ありがとうございました」
頭を下げて言う。そして、アルコールをさらにずいっと差し出した。
「せめて消毒を!」
私が言うと、先生はぽかんとしたようにアルコールを見つめる。しばらくそうした後、ふっと目を細めた。
「いや……別に、女に触ったからって、消毒したいと思うわけじゃないから」
「え? そうなんです?」
「でもまあ、うん、せっかくだから」
そう言って、ワンプッシュ手に吹きかけた。そして、どこか柔らかい目元で私に言った。
「ありがとう」
その声色が、普段よりずっと優しいものに聞こえた。ふわりとしたような、温かな声。つい驚いて先生の顔を見上げてしまう。しかし、すぐさま先生は踵を返して私を置いて行ってしまった。
黒い服が、闇に溶けむよう。その後ろ姿をぼんやり眺めながら、複雑な思いを抱く。
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